
宮﨑茶房 Farm Letter vol.36

仲間や地域に笑顔を育む宮﨑 亮の癒し
薫り高く、澄んだ黄金色の伝統的な有機釜炒り茶
九州のほぼ中央、宮崎県の北西部に位置する五ヶ瀬町。全般的に地形は急峻で、町の総面積の約88%を森林が占めている。平均標高は620メートル、年間平均気温13度と冷涼な地域で、夏と冬の寒暖差が極めて大きい。温暖な宮崎県では特異な気象条件下にある。
この地域では昔から山野に藪茶・山茶と呼ばれる茶の木が自生し、鉄釜を用いて伝統的な釜炒り茶に加工されてきた。茶には、緑茶、烏龍茶、紅茶とあるが、茶葉の発酵による違いで、同じ茶葉から作られる。緑茶には「蒸す、釜で炒る」というふたつの製法があり、現在、そのほとんどは蒸す煎茶で、釜炒り茶は希少だ。澄んだ黄金色で、渋味や苦味が出にくく、薫り高いのが釜炒り茶の特徴である。
昭和58年から農薬を一切使用せず、有機肥料のみを施して有機釜炒り茶を作り続け、平成13年に有機JAS認証を取得した宮﨑茶房。「飲んだら元気になるようなお茶づくり」を目標にした安心なお茶づくりが評価され、平成14年に農林水産祭にて天皇杯を授与された。

(左列前から)干川さん、横山さん、八木さん、(中央列)宮﨑さん、青木さん、熊谷さん、津隈さん、(右列)岡崎さん、永野さん、宮﨑さんの妻・恵美子さん
お茶を通じて地域を活性化し、みんなで幸せに
【宮﨑茶房 宮﨑 亮さん】

豊かな香気が魅力の日常のお茶
煎茶は蒸しますが、釜炒り茶は釜で炒って作ります。焼き芋と、ふかした芋の違いですね。五ヶ瀬は昼夜の寒暖差が大きく、寒いので、平地に比べて葉が薄く、うま味成分は少ない。その分、すっきりして香りが良いのが特徴です。大きいやかんにお茶っ葉を入れて、ポットでお湯を入れると香りが立ち、そのまま入れっぱなしの日常のお茶で、ご飯に合う。水出しが早く、常温なら30分から1時間で、色が薄くても味はしっかり出てきます。
深い緑色の煎茶に対し、釜炒り茶は黄金色です。僕たちは煎茶のようにお茶の木に覆いを被せず、太陽に当てます。深い緑の葉にはならないけれど、渋味も香りもしっかりあって飲みやすい。有機無農薬で安全安心なのが一番ですし、栄養成分分析によると、在来種や昔の品種などは特に、カテキンやビタミンCなど、体にいい成分が豊富です。
固定観念に縛られず、紅茶や烏龍茶など、いろいろな品種や製法でお茶を作ることをコンセプトにしています。「在来種や昔の品種は緑茶に向かないから早く植え替えなさい」と県の指導があったのですが、緑茶にするには渋い品種は紅茶にすると、しっかりした味わいになります。研究しながら品種の個性を伸ばしてやるのが大事です。
失敗のなかに成功のヒントがあるので、試しながら楽しくやるうちに面白い人や情報が集まってミックスされ、多彩なお茶へとつながっています。
先代の在来種を大事に守る
年に1、2回の農薬でも、母ちゃんの肌が弱かったことなどもあり、昭和58年、父ちゃんと母ちゃんが無農薬無化学肥料の有機のお茶栽培に切り替えました。最初は病気や虫で苦労したようでしたが、初代が種から植えた昔からの在来種の茶畑が病気に強かったんです。いま全国的によくある「やぶきた」という品種は病気に弱いので、そればかりだと大変でしたが、先代の茶畑を大事にしていこうと6〜7反ほど在来種が残っていたので、乗りきれたのだと思います。直根が張った在来種は強く、一番古いものは樹齢が百年近いんですよ。
収量や病気耐性は品種によって全然違うので、自分が就農してからは品種の研究をしています。いま23品種。圃場の面積は14町歩くらいで、140何箇所に点在しています。お茶業界は人手不足、後継者不足、販売不振、重労働などで、やめていく方が多いんですね。そういう茶畑を受け入れているので、やぶきたも半分くらいありますが、あとの半分は病気に強い「みなみさやか」「たかちほ」「やまなみ」など、宮崎県で育成した品種を主に植えています。そのため、収量は安定してきていて、番茶も入れれば30トンくらいとっています。
地域が潤う仕組みを作りたい
僕たち以外の地域のお茶屋さんや近所の方たちが宮﨑茶房のお茶を通じて、少しでも潤っていけるような仕組みができたらと考えています。お菓子作りを任せたり、障害者施設とやれることをやったり、他の加工所とも組んだり、移住者も増えてきているので、地域を活性化しながら、貢献できるようなお茶屋さんになれれば理想的です。地域の草刈りが大変ならボランティアで手伝うなど、自分たちが無理せずに楽しんでやれる程度にやれればいいかなと思い、少しずつ取り組んでいます。
生姜やゆず、しそ、ハーブ、野草など、他の生産者と作ったり、地域にあるものをうまく活用したりしてできることがないか。ブルーベリーの葉っぱをお茶にして販売する試みも始めました。お茶を通じていろいろなものがブレンドできたり、販売できたり、仲間作りができたらいいなあと思っています。究極の目標はみんなが幸せになること。うちで作ったお茶を飲んだ人がみんな元気になってくれることがモットーですし、お茶を通じた地域の活性化を楽しくやっていくしかありません。

釜炒り茶の原点を探求し、伝統の手炒り製法を継承
五ヶ瀬町では昭和30年前半まで全農家で手炒りによる釜炒り茶が作られていた。山間・谷間に点在する茶畑から家族総出で摘みとった茶の葉を、熱した平釜で夜遅くまで手炒りしていたのだ。しかし、大型自動製茶機の登場で、製茶業の若者は当時の製法や品質、特徴を知ることはない。そこで五ヶ瀬町茶業組合青年部では、伝統の製茶方法を体得・継承し、機械製茶に応用すべく、新茶前に毎年、手炒り釜炒り茶作りを実施している。
直火にかけて熱した鉄釜に摘み取ったばかりの新芽を入れると、パチパチと爆ぜる音がする。手で炒るうちに、「だんだん色が変わっていくんです」と、手炒り&手揉みの実演をしてくださった宮﨑さん。手で揉み、少し乾燥させたあと、手炒り→乾燥という作業を4〜5回繰り返す。「揉むことによって、表面だけでなく、中の水分を出しながら乾燥させていくんです」
釜炒りが茶の風味を引き出し、葉の形は球状や半球状になる。熟練の技と根気強い手作業で、極上の手炒り新茶ができあがる。




