
はるか農園 Farm Letter vol.28

循環型農業で有機農産物の普及を。三浦賢悟の独自性
自然の生態系に調和した効率重視の優れた栽培技術
シェア8割の収穫量(平成29年産)を誇る全国一のじゃがいも産地・北海道。じゃがいもの原産地は南アメリカの中央アンデス山脈の標高3千メートルを超える高地といわれ、寒さに強く、冷害の影響が少ない。栽培適正温度15〜21度で、涼しい北海道の気候に適し、春から秋までの長いあいだ栽培期間が確保できるため、収量も多い。
じゃがいもはビタミンCやB1、カリウム、繊維質などの栄養素をたくさん含んでいる。特に血管を強くする働きがあるビタミンCは、りんごの約5倍の量が含まれ、加熱してもでん粉が糊化して、ビタミンCが失われにくいのが大きな特長だ。用途に応じて、北海道では男爵薯やメークインなど、約50種類もの品種が作付けされている。
道都札幌から車で約1時間の近郊に位置しながら、十勝地方につぐ大規模畑作が営まれている千歳市で、はるか農園は有機JASで野菜を栽培、その作物を鶏の飼料にして、農業と養鶏をリンクさせ、昔ながらの「循環型農業」を実践しながら技術に磨きをかけている。

和気あいあいとじゃがいもを収穫するスタッフ一同と。右から、三浦さん、後村さん、三国さん、加治山さん、竹原さん、小学校1年生の息子・悠悟くん
高品質の野菜と自然卵でおいしい食卓に
【はるか農園 三浦賢悟さん】
生命への尽きない興味

安全な食べ物や、どうやって生命が育っていくかに、もともと興味がありました。自分にアレルギーがあったわけではありませんが、子ども時代にはほとんどいなかったアレルギーやアトピーの子が、僕が大学生になる頃にはクラスに数人はいるような状況で、気になっていたのです。東京で仕事をしていたときから農家さんを訪ね、無農薬の野菜の育て方などを直接聞いていました。それを仕事にするとは全く思っていませんでしたが。
実家の札幌に戻り、次は何をしようか考えていたとき、北海道の友人から「農家が向いているんじゃないか」と言われたのが就農のきっかけです。
道の新規就農制度を利用し、千歳市に就農して18年ほど経ちました。千歳を選んだのは、知り合いからここの農家さんを紹介してもらえたからです。また、作った農産物をどこで売るか考え、札幌近郊がいいと思いました。新規就農の基準の2ヘクタールから始めたのですが、農業の「の」の字も知らない僕の作ったものを僕が農家になるきっかけを作ってくれた農家さんがすべて買い取ってくださって、非常に恵まれていたと思います。
鶏とじゃがいもが出発点
東京オリンピックの頃ぐらいまでは、トラクター代わりの馬のほか、ブタかヤギ数頭と鶏数十羽が必ず家にいて、畑もやり、畑でとれたクズいもなどをエサにするのが当たり前だと先輩のおじいちゃん農家さんたちから聞きました。畑は畑屋さん、家畜は牛屋さんや豚屋さんと専業にするのではなく、自分もしくは狭いこの地域のなかで回していけるといいなと思い、養鶏100羽とじゃがいもからスタートしました。
1年目のいもがたまたま無農薬でできたので、最初から有機栽培です。いもの病気がない土地に 植えたため1年目は大丈夫でしたが、2年目には 病気がもう畑にありますから、枯れるのも早かっ たですね。病害には毎年苦労 していますし、収量が上がらないときも多いです。
じゃがいもは「ワセシロ」「キタアカリ」「さやあかね」の3品種を作っています。ワセシロは油で焦げづらいので、炒めたり、フライにしたり、油調理に向いています。男爵薯に似た特徴です。人気のあるキタアカリは、肉の色に黄色みがあり、ビタミンCが豊富です。甘味が多く、ポテトサラダに最適です。皮が赤いさやあかねは、寒さが厳しくなってきた11月くらいから、甘味と風味が出る品種です。
循環型農業で技術を高める

現在、2000羽の鶏を平飼いし、約17ヘクタールの土地でケール、レタス、スイートコーン、かぼちゃ、玉ねぎなどを作っています。圃場は全部有機JASで、維持管理していくのは大変です。
有機の農産物が高い一つの原因は物量が少ないせいで物流コストが非常に高いことです。生産者の庭先の価格は変わらないのに、店頭に並ぶと差が出ます。高いと売れません。有機の野菜が安定して豊富に生産流通することで手ごろな値段となり、当たり前に食卓に並ぶようになって欲しい。 うちも含めて有機の技術は発展途上だと思っています。その技術開発をしていかないと、減農薬や肥料の工夫で安全性を高め、成果を上げている慣行栽培に、取り残されてしまいます。安全でおいしいものを、生産性をもっていかに作るかが非常に大切です。
鶏糞を堆肥にして畑に戻し、野菜の残渣を鶏の餌にする循環型農業は肥料の由来が確かで安全安心です。鶏糞は窒素分が多いのですが、炭素分が少なく、道では畜糞は手に入っても十分な量の炭素の元が確保できないので、そこをどう補うかが技術的な課題になっています。各所から籾殻などを集める、緑肥を作るなど、苦労するところです。
手間がかかるという作業性の問題で、循環型を実践する農家さんは少ないですね。季節によりますが、うちではスタッフ10人で取り組んでいます。
手間をかける贅沢
就農した頃は、小規模な有機農家がもっと増えると思っていましたが、より大規模化して、軒数は減っています。1970年代、学生運動が下火になったときに辞めて有機農家になった人たちを第1世代と僕は呼んでいるのですが、ちょうど引退の時期を迎えています。後を継ぐ方が意外に少ないようですが、畑は1年ではできず、長い時間をかけて土が良くなってくるのですから、世代継承で途切れさせるのはもったいないし、残念です。
この止まらない流れのなかで、より安全でおいしいものを効率よく作っていかなくてはなりません。まだまだ可能性があるので、技術を向上させて、もっといいものをさらに生産性よく作っていけたらなと思っています。面積をどれくらい大きくするかはいつも考えています。また、現状の2トンから2トン500ぐらいの単収を、慣行レベルの3トンぐらいまで上げていくのが目標です。
食生活が変わり、家庭で料理をしなくなっています。例えば、ポテトコロッケを家で作られる方がどんどん減っています。手間をかけておいしくするのはとても贅沢なことなのに、簡単に手早く作ることを主眼にした料理本があふれています。人々の価値観が、「いかにおいしく食べるか」「おいしくなるなら手間をかけてもいい」ということに変わり、素材の良さを味わってもらえると嬉しいですね。
鶏たちはアスリート

「最初に生んだ卵を食べたときの衝撃が大きくて。これまで食べていたものと全然違って、臭みがない。右も左もわかっていない飼い始めの状態でも、こんなに差があるのかと驚いたんです」と、三浦さん。鶏の体はいま、できるだけ餌をやらずに卵をいっぱい生ませるために筋肉をつけず、遺伝子のレベルで「卵を生む機械」に改良されているそうだ。その結果、昔は卵を生むのに180日近くかかっていたのが、120日ほどで生み出すという。しかし、卵はよく生むが、負荷がかかる分、すぐに体が壊れる。
「体に無理がかからないように、鶏が欲する栄養をいかに与え、内臓を壊さないか。僕は鶏たちをアスリートだといっています。体を壊さないことと元気に卵を生むことの両立に苦労しますね」
記録を狙うために体を鍛えながらも体を壊さないオリンピック選手と鶏たちは同じだと三浦さんはいう。三浦さんの鶏たちは平飼いで自由に動き回っている。卵には育てられ方が如実に現れる。安いものには裏が、高いものには理由があるのだ。


