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記事: オレンジヒルズ Farm Letter vol.44

オレンジヒルズ Farm Letter vol.44

オレンジヒルズ Farm Letter vol.44

 土と創る.44 水俣レモン(PDF版ダウンロードはこちらから)


創業百年の心を紡ぐ松本喜一のバトン


次世代に残したい美しい里山と無農薬レモン

 熊本県は古くから甘夏の産地として知られ、デコポンは日本一の栽培面積と生産量を誇る。デコポンの品種名は不知火といい、それまで首位だった伊予柑を抜いて晩柑類で収穫量トップとなっている。熊本は国産レモンの生産量も全国4位で、柑橘類果樹の宝庫だ。  熊本県の最南部に位置する水俣市は、西は不知火海に面し、北・東・南の三方を山に囲まれた緑の多い風光明媚な土地である。地域一体となった環境都市づくりの下、農薬・化学肥料を使わない農業が広がり、無農薬栽培の茶や柑橘類の日本有数の産地といわれる。  明治初期に広島県呉市から水俣市に移住し、百年以上も柑橘栽培に携わってきた由緒ある松本農園。四代目の松本喜一さんは、息子・礼美さんの就農を機に「オレンジヒルズ」と株式会社化した。化学肥料不使用、減農薬の不知火「デコ」はリピート率90%の人気。無農薬栽培のレモンは3年後の有機JAS認証取得を目指す。オリーブの栽培にも着手し、加工や販売、体験農園にも挑戦する予定だ。

果汁が多くて酸味の強い、爽やかな香りのリスボンレモンの畑で。(左から)松本喜一さん、息子の礼美さんと妻の香織さん、3歳の葵叶(あおい)くん、8歳の來夢(らむ)ちゃん。オレンジヒルズ二代目園長のボス(かぼす)は、いつも畑でみんなの働きぶりを見守る

憩いのオリーブの丘と有機JASレモン実現へ

【オレンジヒルズ 松本喜一さん】

 

デコポン、レモン、オリーブが三本柱

 松田喜一先生という、熊本県では農業の神様といわれるぐらい有名な方がいて、その松田農場を出た父から、先生と同じ名前をいただきました。就農したのは約30年ぐらい前です。2年間、東京農業大学で学び、池袋調理師学校で講師をして、ビルメンテナンスの会社に入りました。田舎の父と母がちょうど60歳になったころ、そろそろ後を継がなきゃいけないかなと思って帰ってきました。
 三代目の父まで養鶏をしていたのを私が柑橘に一本化し、規模拡大を進めました。いま圃場面積は8ヘクタールです。オリーブが2、レモンが2、デコポンが4ヘクタール。メインはデコポンですが、収穫時期が重ならないよう三本柱で考えています。9〜10月にオリーブ、10〜12月にレモンを収穫し、デコポンに移ります。レモンもオリーブも幼木をしっかり成木にするのが第一の目標です。
 レモンの無農薬栽培に取り組み始めて8年目です。ここの気候は暖かく、レモンや柑橘に適しています。土は赤土でミネラルが豊富、鉄分をよく含んでいます。乾燥にも強く、保水力があります。ただ、4年前に大雪が降って、レモンの木が全部枯れました。66年生きていて、あんなに降ったのは初めてで、びっくりしました。根元から20センチぐらいのところから全部切ってやっと元に戻り、本格的に収穫したのは今年からです。40アールに150本、収量は約2トン、品種はリスボンです。

品種に勝る技術なし

 無農薬レモンはロスが出ます。この茶色の葉はかいよう病です。雨が降ったら、滴とともに菌が落ちて蔓延します。これを抑えるために通常は春先から薬をかけるのですが、農薬を使わないため、実にも影響します。普通なら廃棄する見栄えが悪いものをお客さんが買ってくださって助かります。
 約1ヘクタールの圃場に千本ほど新たに植えたのは、かいよう病になりにくい璃の香という新品種で、酸味が少なめの食べられるレモンです。品種に勝る技術はないと昔からいわれるように、いくらがんばっても甘いレモンを作ることはできません。技術があれば何でもできるかといえば、私は無理だと思っています。品種を選ぶのが第一の基本ですから、無農薬栽培にこだわり、病気になりづらい品種を選びました。2年目で2メートル近く伸びていますので、来年から収穫できます。
 防虫剤や殺菌剤、ワックスなどのポストハーベストも一切不使用ですから、安心して皮ごと食べられます。ずっと触っているとワックスで手の皮がむけるので輸入レモンにじかに触りたくないという市場の方もいます。今年、有機JAS認証の取得に向けてスタートし、3年後には完全に有機栽培にして、販売までつなげたいと思っています。

安定したベースで仕事も生活も楽しく>

 レモン以外の柑橘は減農薬です。レモン同様、水俣市の会社が作っている有機質肥料を与えています。普通は22回まで農薬をかけていいところ、半量に減らしているので申請すれば特別栽培です。
 基本的に全部農薬をかけたくないのですが、デコポンは贈答用として見た目を重視する消費者の方もいらっしゃいます。先駆者も教科書もない状況で、五里霧中でデコポンの無農薬栽培にチャレンジしたこともあるのですが、ミカンサビダニで果皮が真っ黒になって失敗してしまいました。野菜と違って1回失敗すると1年間が無駄になり、収量を元に戻すのには1年、2年とかかります。
 実は父が農協の果実部長をしていたため、私が農協をやめて、喧嘩になりました。一緒に住んでいた父に「裏切り者。親子の縁を切る」と言われたのです。でも、父もやがて一緒に剪定をしてくれ、私が選んだ道をよかったと言ってくれました。
 子どもたちが農家として安定した生活を送れるよう、オレンジヒルズという会社組織にしました。自分たちに安定したベースがなかったら地域の方にも貢献できません。サラリーマンのように収入と休みがちゃんとあることが基本です。日曜日はきちっと休み、8時から5時までで残業もしません。息子はサッカー、私は乗馬と、生活をエンジョイしながら仕事も楽しんでいきたい。それを見ていれば、孫たちも継ぐのではないでしょうか。

グローバルな視点で地球環境を

次世代に継ぎたいのは環境問題です。林業も農業も空気を作って出しています。CO2などの温室効果ガスの排出量削減に向き合わないと、里山が減ってきてしまいます。イノシシなどの獣害も非常に多く、林業や農業が衰退すれば深刻化します。農業をしていることで土地が荒れるのを防げます。
 できるだけ化学的な農薬や肥料を使わないことにより、地下水の汚染が抑えられます。薬剤は光や土で分解されるものですが、全部は分解しきれずに土に浸透し、地下水となります。それが海に流れるか、汲み上げて飲むか。オレンジヒルズでは化学合成された肥料は一切使用していません。
 将来的にはオリーブの木をもっと大きくして、加工場を作ったり、搾る機械を購入したり、販売先を考えたりしたいですね。オリーブが見える丘があり、そこに寛げる場所が備えられ、小さな圃場にはオリーブを搾れる機械を置いて試食ができるなど、そういった計画を実現していきたいです。

オレンジヒルズの商品はこちらから

 

5年後、10年後を見据え、苗木の成長を楽しみに(五代目松本礼美さん)

 8年前、二十歳の時に就農しました。小学生まではサッカー選手になりたかったけど、その後は農業しなさいといわれなくてもやりたかったから、父さんがすごいんじゃないでしょうか。
 高校はサッカーも強くて農業も学べたので、熊本農業高校に行き、卒業後に茨城県つくば市の果樹研究所に行きました。母が倒れてしまい、2年のところを1年で戻り、和歌山の観音山フルーツガーデンで1年間研修しました。ネット注文主体で、うちと同じ広さで10倍売り上げていたので勉強になりました。
 レモンは4年前の大雪で一度は枯れてしまったけど、奇跡的に復活し、収穫できるようになりました。加工にも使えるし、増やしたい。有機JASレモンの価値をわかってくれる人がいっぱいいると思うので、大変でもがんばってやっていきたいです。  みかん農家の僕と他の野菜農家と連携して水俣の物を売りに行ったりもしたいですね。相談したり切磋琢磨したりできる同世代が周りにいれば、もっとやりがいがあるのになと思います。


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