
フルーツの森 森谷果樹園 Farm Letter Vol.40

苦楽を享受し、未来を見据える森谷光夫の心眼
北限の桃源郷に煌めく特別栽培の芳醇な桃
市の中心部には天から童子が舞い降りたとされる舞鶴山、東に蔵王連峰、西に霊峰月山を仰ぐ美しい自然環境のもと、「将棋駒といで湯とフルーツの里」として知られる、魅力あふれる山形県天童市。
果実の女王と称賛される西洋梨の最高峰「ラ・フランス」は生産量日本一を誇り、山形県を代表する初夏の味覚のさくらんぼ、桃やぶどう、りんごなど、豊富な果物が四季折々収穫される果物王国だ。
フルーツの森 森谷果樹園の森谷光夫さんは、平成10年から化学肥料を使わず、農薬を最小限に抑えて、桃やさくらんぼ、ラ・フランス、りんごを特別栽培で育てている。園地の西には月山や朝日連峰、東には水晶山がそびえ、奥羽山脈系の白水川と乱川からは滋養たっぷりのミネラル天然水が標高140メートルの扇状地に注ぐ。
自然科学と木の持つ特性を生かし、天然微生物資材で栽培している健康な桃は酸化や劣化がしにくく、アントシアニンやペクチンなどの栄養成分が豊富。歯に繊維も残りにくく、皮ごと食べられる。
チャチャ、マンボ、ジルバなど、ダンスが得意な森谷さんは妻となる優子さんとダンスパーティーで親交を深め、就農前の26歳で結婚。「色白で、綺麗でしたよ」と森谷さん。農業の苦楽をともにしている
天童の夏空に描く日本農業のルネサンス
フルーツの森 森谷果樹園 森谷光夫さん
20品種もの桃をリレー栽培

暑い夏は生命活動が活発で、自然界が躍動感にあふれています。夏に収穫する桃は食物繊維が豊富で、さまざまな優れた機能性を持っています。
特別栽培の認証を受けている桃の圃場は2反、共同経営も含め、自然農法の桃の圃場は全部で8反、2400坪です。季節や昼夜の寒暖の差、揺らいで吹く偏西風、川のイオン、山のミネラルなど、ここ天童の気候や地形は果物に合うと思います。肥沃ではないけれど、水はけがいい扇状地は清浄で、果樹に対して非常によい巡りがあるのです。
7月末から8月初め、最初に収穫するのは夢水晶という私のオリジナルの桃です。小玉ですが、東京の有名なパティシエにデザートとして使っていただいています。それから、日川白鳳、美郷、あかつき、まどか、陽夏妃、滝の沢ゴールド、清水白桃、紅黄金桃、黄金桃、スイート光黄、完熟黄桃、川中島、紅錦香、美晴白桃、さくら、幸茜、10月のCX、光月と20品種ほど、自分が食べたいもの、あなたに食べて欲しいものを作っています。作ってダメなら淘汰し、次のものを植えます。
普通は種類や系統を2、3に絞るんです。でも、1品種、1週間から10日なので、2か月ほど供給するため、楽しみながら少しずつリレー形式で品種を繋げ、農縁という食の縁を大事にしています。
低木ハイブリッドに挑戦
「川中島」という品種はお盆過ぎに収穫でき、摘んですぐ食べても追熟をかけてもおいしく、革新的でした。川中島と出会って私は覚醒し、桃にはまり込んでいったのです。川中島の血を引き継いだ鮮紅色の「紅錦香」は、繊維が少なく絹のようにきめ細やかな果肉が特徴の香り高い甘い桃です。
紅錦香は低木ハイブリッドで栽培しています。普通は倍の高さになるところ、木の背丈を低くすることで、梯子から落ちて怪我をするなどの事故を防ぎます。梯子を使わずに摘めれば安全です。
枝を低い位置からたくさん発生させているため、根からの養分がそのまま木全体へ伝わっていきます。通常はハサミとノコギリで剪定しますが、山の木は誰も切ってくれといっていませんよね。木に任せて、なるべくいじりません。人為的には、来年あたり梨のように上から吊り下げ、支えます。
私は木に何も求めず、無償の愛を注いでいますが、木を活かすことによって、木が私に「あなたにあげますよ」と有償の愛でお返ししてくれ、お客さまにおいしい桃を送り届けることができます。そういう繰り返しです。安全面と木の持つ特性を最大限使うことがハイブリッドの一番いいところで、ここ5、6年はこの方法です。これからは桃でも何でも低木栽培が主流になっていくでしょう。
適熟の桃を種の周りまで
天童の明治乳業、天童木工、漬物屋さんの販売と各4年ほど働いた後に、32歳で就農しました。就職前、卒業式の翌日から一か月かけて、山形からヒッチハイクで九州まで行きました。何かを体験をするのが面白い、好奇心旺盛な性格なんです。
最初からなるべく農薬や化学肥料を使わないと決めていました。就農前の二十歳過ぎから青年団体の活動などで、有機栽培に達観された星寛治さんにお会いする機会があったり、有吉佐和子さんに影響を受けたりして感ずるものがあったんです。いくらおいしくても、思想だけが先行し、傷んだ虫食い状態で産品として成り立たないものは次世代に残していけないと案じていて、農業の経済面も含め、有機や自然な栽培体系を目指しています。
地球を覆う命の源の成層圏同様、果物や野菜も自分を保護する綿毛がバリア層を作って表面を守っています。桃の綿毛が自然に落ち、触わるとすべっとして、表面が照り輝いたときが適熟です。
市場に出荷する場合は硬い状態で出しますが、うちでは「私を摘んで、食べてほしいよ」という品種が最もおいしい一瞬に摘むよう心がけています。召し上がる方に、えぐみがなく、種の周りまでも喜んで食べられる本物を味わってもらえたら、桃も本望でしょう。根底にあるのは、鮮度がよくて劣化しない、フレーバーのあるおいしい桃をリーズナブルな価格で提供したいという思いです。
1年1作、果芸を磨く
総合的な視点から、日本の農業の再興、ルネサンスを目指したい。もう一度生まれ、再生する心で向かっていけば、この業界もそう心配することはないのではないかと考えています。就農して30何年、自然栽培への想いは40年以上前からで、目に見えないレールがあった気がします。この20年ほどで栽培体系が整い、どうすればおいしく食べていただけるかに苦心したことで、いまの自分があります。さまざまな方々から教えていただき、縁あって繋げてきたものの関係性を大事にしながら、もらったものをお返していきたいと思います。
皆さまと家族の健康を思って作っていくのは最高の生産者冥利に尽きるのではないでしょうか。農業という世界を多様な観点から掘り下げていって、後は楽しく笑って過ごせればいいですね。何百個とあるなかから、この1個の実になるまで何回も手をかけています。1年1作、果実ひとつずつが芸術だという想いで、食べた方が幸せになれるよう、「果芸」を磨いていきたいと励んでいます。

次代の農業や日本を担う、素直で柔軟な若者へ投資
「1反100万円になるならやりたい」という新規就農の若者がいるなら、草を刈って管理している3〜5反の畑を、桃を植えた状態で預けてもいいと用意している森谷さん。「機械を扱うのはプロだから除草や植えるのはお手の物だし、必要ないなら木は倒せばいい。次世代への5万、10万の投資は惜しまない」と笑う。
「すべてはあなたのため、大地のため、地球のため、優しい環境を守るため、次世代につながる農業をしたい。自分だけじゃなく、大きい枠のなかで、このエリアも内陸部も庄内も東北も日本もみんなが元気じゃないと。若い人を育てるための段取りをいかにビジョン化するか。もう68歳になるので、四半期、半年、1年刻みでタイムスケジュールを作っていかないといけません。なるべくハサミやノコギリを使わず、手をかけなくていい、木に合わせた栽培管理から、生活するための資金をどのように供給するかまで、技とともにハードとソフトの両面から、新規就農者が食べていける環境を作ってさしあげたい」(森谷さん)





