
吉備路オーガニックワーク Farm Letter vol.32

人も地域も巻き込んで進む林 賢治の包容力
高品質で多収量の有機栽培農法が生む糖度12度の甘いにんじん
「晴れの国」岡山県の南西部に位置する総社市は、東部は岡山市、南部は倉敷市の2大都市に隣接し、人口およそ6・8万人(平成29年4月1日現在)、総面積約212平方キロメートル。カルスト台地を上流に有する岡山県の三大河川のひとつ高梁川が地域の中央を北から南に貫流している。年平均気温は16・5度前後で雨量は年間千ミリ前後と、瀬戸内海特有の温暖かつ少雨の恵まれた気候だ。
これら自然の恵みを活かして、吉備路オーガニックワークは総社市清音地区を中心とした10ヘクタールの「総社農園」で、にんじん、水稲、さつまいもなどを生産している。化学合成された農薬や肥料を使わず、土作りや栄養価、味に徹底的にこだわって栽培し、平成13年に有機JAS認証と、おかやま有機無農薬農産物認定を受けた。
昨年、岡山市北区御津紙工のくぼ観光農園を引き継ぎ、県内最大級の体験農園「くぼ農園」の運営を開始。「魅力ある農業の推進・地域の活性化・美しい里山の復興」をビジョンに掲げ、邁進している。

左から、林さん、服部義久さん、佐藤裕介さん、松永祐介さん、服部義久さん
目標は岡山をリードする農業生産法人へと導くこと
【有限会社吉備路オーガニックワーク 林賢治さん】
岡山をリードする農業生産法人へ
創始者の香西達夫さんのにんじんは全国的にブランド力があって、直売をやっていたときも知名度が高かったんです。香西さんが病気で会社の雲行きが怪しいと聞き、このままなくなるのはもったいないと思いました。生産力が不足する時代に突入していくなか、いまある多くの田畑をこれから誰が管理し、活用していくのかと、直売所の運営を通じて疑問に感じていました。だから、野菜を中心とした農業生産法人として、岡山を活性化したいという思いで入らせていただいたのです。
いま生産部のマネージャーを任せている服部義久くんを中心に、当時は4人ぐらい働いていました。20キロの重さのコンテナを三つ四つ持って畑の端から端まで平気で走って行くスーパーマンの集まりで、人間業ではありませんでした。成長するために体も鍛えないといけない時代になっているとは思いますが、その4人は鍛えすぎでしたね。
アミノ酸・ミネラル・土壌が鍵
にんじんの反収は全国平均的に3〜3・5トンといわれますが、ここは当初2・5トンでした。徳島の板野地区のように反収5トンの目標を定め、先行投資で土作りにお金と時間をかけ、3年で3・5トンが見え始めました。収量と同時に、糖度や姿形などの品質向上も図っています。高品質で高栄養価、多収穫を実現するのが目標です。いまは年2作ですが、いいにんじんを作るには年1作のほうがいいだろうと考えています。人間同様、田畑にも休む時期が必要ではないでしょうか。
土壌分析・施肥設計に基づき、黒マルチや透明マルチを駆使して太陽熱養生処理で土作りをして栽培するBLOF理論の実践を心がけています。手間暇かかるのが有機農業ではなく、栄養価が高く慣行以上に収量が上がり、味も良い、虫にも強い、連作障害も少なくなるというのがBLOF理論の原理原則です。3年で土質が軟らかく変わり、にんじんと一緒にコンクリートのような土が固まって掘り出される状態から、にんじんだけがスポッと抜けるようになり、秀品率も上がりました。
科学的な分析に感性をプラス
ここは平坦な地なので、染み込んだ水がスーッと抜けていくよう、20〜30センチほど溝掘をした高畝栽培で排水対策を徹底しています。昔ながらの農業のやり方に科学的な分析などの進化した部分を導入しながら、大事なところを忘れない。ただ分析結果の通りにするのではなく、葉の状態や湿度、土の状態を感じることが、いまの時代に必要な野菜作りの基本、農業の醍醐味だと思います。
今年のにんじんは糖度が12度ぐらいで、非常に甘いと評判です。去年までは10度ほどで、一般の7〜8度よりは甘かったのですが、今年は特にいい。知識や知恵が蓄積され、経験値を踏まえ、いろいろな作柄に対するアプローチができつつあります。 科学的なことも大事ですが、感性を忘れたらいい野菜はできないと思います。ボタン一つで結果が出る世界にいる人は経過を見ずに判断しますが、同じ言葉でも相手の目つきや頷くタイミングなどで感じる部分があるものです。コミュニケーション能力や人間力、グローバルに物事を見る力が、ますます必要になってくるでしょう。農業にはすごく可能性があるんじゃないかなと思っています。
一本の柱を三本の矢に
売上の9割がにんじんです。一本の柱だと怖いから、三本の矢にして栽培期間や収穫時期をずらすことにより、多少リスク分散ができるんじゃないかと思っています。まず、山手地区特産のセロリを引き継ごうと思っています。もう一つはお米です。田んぼが余って耕作放棄地が増えるので、お米の面積を広げていく必要があると考えています。農業をやっている以上は田畑の管理に多少なりとも加担したい。プロの農業集団として磨きをかけながら、第2第3の柱を作りたいと思います。
地域の人と密着していこうと道縁の販売台で、にんじんを売っています。一反ほど作っているさつまいもは焼き芋にしています。近隣のおばちゃんに、甘いと評判です。圃場の横で直売をするなど、もっと地場の人にアピールできたらいいですね。野菜は鮮度が命ですし、海外進出よりも岡山の人間にまず食べてもらいたいなと思っています。
農業にはスペシャリストとマネジメントの両方が必要な気がします。良い土作りを深く追求して研究する人と、会社組織を動かしてマネジメントする人間。だから、二通りの人間が雇えるだけの企業にしていかないといけません。野菜を中心とした農業生産法人として誇りを持って皆にアピールできる企業にしたい、農業を通じて社会に貢献したいという当初の思いは、いまも変わりません。

夢を叶える豊かな里山「くぼ農園」
岡山空港から車で約15分、市街から約40分の御津の里山に、くぼ農園はある。林さんの地元の観光農園を去年から本格的に引き受けたという。広大な土地に柿園やぶどう園、栗園が点在し、アボカドの育成にトライ中だ。桃の栽培も検討中だという。ぶどう狩りや原木栽培のしいたけ狩り、栗拾いやさつまいも掘り、BBQやドラム缶ピザ作りなど年間を通じて楽しめる。95%が岡山県産のマスカット・オブ・アレキサンドリアの温室は700坪。そのテーブルで食べる体験が訪れた人の感動を呼んでいる。
「陶芸家や飲食店など、夢を持ったいろいろな職種の人に住んで欲しい」と林さん。田んぼ一枚ごとの花畑、家族連れが山歩きを楽しみ、ハンモックに揺られ、川で沢ガニや魚とりに興じる豊かな里山のシーンを思い描いているという。ベリーAで作るぶどう酒、古民家ホテルなど、地域活性化の発想はとどまることを知らない。「高齢化が進み、田畑の保全が必要な時代に、農業を通じた中山間地の活性化を果たしたいと思っています」



