
Framer's Yard(ファーマーズ ヤード) Farm letter vol.33
彩豊かな魅せる野菜。鈴木広史の創造性

日常を華やかに演出する、安心安全な野菜アレンジメント
北は日本海から南は瀬戸内海に面し、南北に長いのが特徴の兵庫県。高原・平野・島々など、変化に富んだ広大な地形を有し、さまざまな自然状況のもとで、地域特有の多品目の野菜が栽培されてきた。
姫路市の北側に位置する夢前町で土作りにこだわり、化学肥料や農薬を使わず、野菜の栽培に取り組むファーマーズヤードの鈴木広史さん。妻の彩さんとともに珍しい葉野菜や根菜類などを育てている。
「中山間地なので寒暖差がすごくあります。ここはもともと地元のおばあちゃんが京都の料亭に出す黒豆を作っていた粘土質の畑です」と広史さん。年間約400品種もの野菜を栽培するのは、「365日毎日違う種類を楽しんでほしくて」と野菜ソムリエの彩さん。世界各地の個性的な野菜の種を見つけ、栽培法に工夫を凝らし、ミニサイズに仕立てている。季節ごとに旬のミニ野菜を数多く収穫できることから生まれたのがカラフルなベジタブルアレンジメント。造形美を目で楽しんだ後、新鮮な健康野菜をおいしく味わえると評判だ。

アレンジメントは、誕生日・記念日・開店祝いなど大切な人への贈り物として、 広史さん・彩さんご夫妻の手で心を込めて制作される
狭く険しい茨の道でも 変わったものを作りたい
【Framer's Yard 鈴木広史さん】
就農当初にトマトが全滅
就農したのは2011年です。大学4年間、ホームセンターの園芸植物部門でアルバイトをして植物のおもしろさを知り、そこに就職しました。バイヤーとして仕入れや買い付けをして農家さんと知り合い、農業はおもしろいと感じました。必要な修行を積んで農家になろうと造園業や苗屋さんで10年ほど働き、最後の7年間は花屋さんです。
2006年に結婚したとき、妻は花にも野菜にも全く興味がありませんでした。就農に反対はしませんでしたが、「私を巻き込まないで」と頑なでしたね。体を動かすのが好きな父が建築の仕事を定年になり、母と一緒に手伝ってくれていたのですが、就農の翌年に母に大きな病気が見つかり、代わりに妻が手伝ってくれるようになりました。
最初は高糖度トマトを露地で作ろうと、苗から作って接ぎ木までして二千株ぐらい順調に育ってきていたのに、ゲリラ豪雨で全滅したんです。夫婦にとってのいきなりの試練に挫折しそうでした。1品目に特化するとリスクがあるので、夢前の地に合う多様な野菜の品種を種から研究しながら栽培していたら、いつのまにか増えて、3反の畑で年間400品種近くの野菜を栽培しています。
独自路線を確立したい

何もわからず農業を始めたので、なぜうちの野菜は葉っぱばかり大きくなるのかと不思議でした。大きくするには肥料をたくさんやらなければいけない、肥料をやると虫が出る、虫が出たら薬をかけると本に書いてあります。うちは農薬や化学肥料を使いません。そこで、小さく作ればおもしろいのではないかと考えました。逆転の発想です。
無農薬・無化学肥料栽培は難しいからやめた方がいいと就農当時に周囲から言われ、逆に険しい道を進みたくなりました。その方が価値が出て、販売にプラスになるだろうと思ったのです。みんなと同じサイズにもできないのだからこそ独自の路線を確立しようと、絶対に譲らないと決めました。
アブラムシが大量に発生したときには、ちょっと引きました。洗い流しても小さいものは残るし、「薬かけたらおらんようになるんやろうか」と思いました。夏に根菜が1棟まるまるだめになったこともありましたが、それ以降その圃場はよくなり、虫はある程度、落ち着きが見えてきた部分があります。夏野菜のトマトやナスには2粒ぐらい有機肥料をやりますが、ほとんどが無施肥です。
仲間の思いつきが生んだ野菜ブーケ

農家は作った野菜を販売していかなくてはいけません。健康志向の高い女性に食べてもらおうと、品種にこだわり、カラフルな野菜を選びました。イタリアやフランスの西洋野菜も作っています。変わったものが好きで、色合いやサイズ感も含め、取引先シェフが驚く野菜の提供を心がけています。
所属している姫路の若手農家のグループ「農家HANDS」の仲間から、農業イベントで渡す花束の代わりに、「ミニ野菜でブーケを作ってみたら」と思いつきで言われたのが、野菜をブーケにし始めたきっかけです。新しいことに挑戦したい気持ちは常にありますし、自分の作った野菜をきれいに見せられるのは嬉しいので、やってみたら好評でした。華やかな野菜アレンジメントが簡単に作れる教室も、人から提案を受けて始めたものです。
農業の醍醐味は、自分が選んだ野菜を作れることです。しかも、それを作品にまで仕上げられる。花屋のときには経験できなかったことです。花屋は自分がこれだと思う花を市場で買ってきますが、畑に行ってみて、どれとどれを組み合わせようかというところから始められるのは創作意欲を半端なく刺激させられます。野菜の色や質感など、想像を超えるものがあるので、自分の畑で育てられることがおもしろい。そして、それをまた人に評価していただけることが、すごく魅力的ですね。
食材とギフトを5対5に
野菜ブーケやアレンジメントなどのギフト的なものは誕生日や開店祝いなど、特別なときにご要望をいただきます。旬の野菜をテーマに制作し、品目や栄養価、効果、レシピなどを記載した野菜カルテをつけさせていただいています。レストランや旅館、カフェ、個人など、直取引する食材とギフトの割合は7対3ぐらいです。母の日などのイベントにも注力し、まるごと食べられるアート作品の割合を半々ぐらいに高めていきたいです。
安心安全な野菜をお届けするというのはもちろんですが、お客さまを飽きさせない工夫をしていきたいなと思っています。野菜嫌いで料理が苦手だった妻も、自分で種を蒔き、苗にして収穫する喜びや、お客さまからの「野菜嫌いだったけど、ここの野菜はおいしい」という言葉を聞き、やりがいを感じているようです。妻は3年前に野菜ソムリエの資格も取得し、野菜の魅力や機能性、料理法をお客さまにお伝えしていこうと勉強中です。
将来の一つのイメージとして、「美味しんぼ」の山岡士郎さんのようになりたい。農家に寄り添う姿勢や絶対に譲れない頑固さなども含め、日本全国でさまざまなことを勉強し、吸収している姿が目標です。農家に限らず、各分野のすごい人から刺激を受け、触発され、思いを共有し、自分や野菜の可能性を引き出していけたら嬉しいですね。
ベジアートの未来を拓く
「西洋野菜を作っているんだから実際に現地で見たほうがいい」アグリフードEXPOで知り合った加古川の小林種苗の社長さんに背中を押されて一昨年イタリアに行き、現地のシェフと市場で買い付けや料理をし、非常に勉強になったという鈴木夫妻。
美術館や博物館好きの夫妻の究極の夢は、ファーマーズヤードの野菜をルーブル美術館に飾ること。「生だと難しいけど、調整しながら挑戦してみたい。長期間保存ができる麦や綿などのドライの素材も増やし、季節や展示期間に応じて、生とドライの二本柱でアートにチャレンジしたい」と広史さんは意気込む。

岡本太郎さんの太陽の塔に、言葉に表せないぐらいの衝撃を受けたという夫妻のもう一つの夢は岡本太郎現代芸術賞への入賞。昨年は叶わなかったが、趣向を変え、毎年応募していくという。「最近、元フローリストという農家さんも多く、野菜のアートの作り手も増えているので、差別化を図りたい」と広史さん。高い目標を設定し、クリエイターとして自分を追い込んでいる。
<写真>全国農業青年交換大会・近畿ブロックのプロジェクト実績発表の会場、大阪・中之島の大阪市中央公会堂にディスプレイされた野菜のアート作品。参加者から「日頃、自分たちが作っている野菜が、こんな作品になるとは驚きです」との声が多数聞かれた


